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COFFEE BREAK
健康-Health-
コーヒーと健康、「科学的知見」の今。
コーヒーは体によい影響を与える可能性が年々明らかになっているが、包括的に見るとどれほどの効果があるのだろうか?
コーヒーを飲むことは私たちの体や健康によい影響を与える可能性があることは年々明らかになっている。しかし、個々の研究結果から少し離れて、全体像を俯瞰するとどうなのだろう。
九州大学医学部教授などを歴任した古野純典さんに、コーヒーが体に及ぼす科学的知見の全体像をお聞きした。
個々の研究結果を、まとめる「メタ分析」。
「いろいろな分野でコーヒーの研究が進んでいますが、トピックが多すぎて全体像がわかりにくくなっています」
古野さんは現状をこう語る。一つの研究結果が発表されてもそれがどれくらい確かなのかは判断しづらい。近年注目されている「2型糖尿病」(※)(以下、糖尿病)に限っても「コーヒーを飲むと糖尿病になりにくい」と報告する論文は数多く存在するが、否定的な論文もある。また、どれくらい予防的であるのかはっきりしない。そこで有効なのが、多数の研究の結果をまとめて示す「メタ分析」という手法だ。
「発表されたコーヒーと糖尿病に関する個々の研究結果をまとめて評価するのです。コーヒー飲用と糖尿病に関するメタ分析研究を集計しました」
それが表1である。コーヒーと糖尿病の研究が最初に報告されたのは2002年。2005年にはすでに9つのコホート研究(追跡研究)をメタ分析した結果が報告されている。この表で注目したいのは「相対危険」と「95%信頼区間」だ。
「相対危険とは『飲んでいない人あるいは少量飲用の人のリスクを1とした場合の危険度』です。2005年のメタ分析では0.72となっています。これはコーヒーを4〜6杯飲んでいる人は、0杯もしくは2杯未満の人に比べて糖尿病になるリスクが28%少ないという意味です。ただし、これは推定値ですので必ず誤差が生じます。その誤差の範囲を示すのが95%信頼区間です。0.62〜0.83とは、38%リスクが少ないかもしれないし、17%リスクが少ないかもしれないことを示しています」
コーヒーを飲むことで糖尿病の発症リスクは2〜3割軽減できるといえそうだ。また、デカフェコーヒーでも同様にリスク低下がみられる。
メタ分析の結果をさらに包括的にまとめる。
さらに、こうしたメタ分析の論文135編を評価した包括的なレビュー(アンブレラ・レビュー)が、2017年12月にイギリスの研究者グループによって発表されている。
「これは素晴らしい論文です。コーヒーと健康について研究した論文が多数あるなか、広範な健康事象に関するメタ分析をまとめて総括しようという意欲的な取り組みなのです」
古野さんがそう称賛するのは、201ものメタ分析を67の健康項目(疾病や血圧などの健康事象)について調べ、好ましい効果がある「トップ10」と悪い影響がある「ワースト10」を示したサウサンプトン大学のプール氏らの研究だ。表2はコーヒー飲用最大カテゴリと最低カテゴリの比較、表3はコーヒー飲用の有無の比較、表4はコーヒー一日1杯あたりの相対危険で評価した場合のトップ10である。
「私の限られた知識でも、コーヒーの効果が期待できるだろうと考えていたのは糖尿病と肝臓病です。この包括的レビューの結果も同じです。さらに、パーキンソン病もトップ10に必ず入っています。つまり、糖尿病と肝臓病、パーキンソン病については、コーヒーを飲むことで予防的効果があるといってよいと思います」
包括的レビューを、鵜呑みにしない姿勢。
一方、この包括的レビューの「ワースト10」では、いくつかの疾病や健康事象に関して「コーヒーを飲むことでリスクが増す」とも示されている。
「肺がん、膀胱がんなどのいくつかのがんと、妊娠にかかわる不具合、例えば低体重児出生や流産などは、コーヒーを多く飲んでいるヒトでのリスクの高まりが報告されています。しかし、喫煙の影響が十分に調整されていないなど問題点があるので、『ワースト10』がそのままとられると問題があります」
包括的レビューはメタ分析をまとめることで全体像が明らかになるが、もとの個別の研究に対する考察がなく、さらにメタ分析それぞれの「質」にもばらつきがあるため、鵜呑みにするのは危険だと考えているのだ。
「ちなみに国際がん研究機関(IARC)は『コーヒーによる膀胱がんリスクの高まりは喫煙の影響によるものだろう』と結論づけています。肺がんはまったく問題にされていません。また、欧州食品安全機関(EFSA)は『妊娠している女性のカフェインの摂取上限を一日200㎎(レギュラーコーヒーで2〜3杯)にするように』と勧告しています。問題なのはカフェインの摂取量ですから、お茶やエネルギー飲料などにも注意しなければなりません」
プール氏らの包括的レビューはコーヒーと健康に関する科学的知見の全体像を示すものではあるが、そのほかの研究機関の報告書やガイドラインも併せて考慮しなくてはいけない。とはいえ、この包括的レビューによって、コーヒーを飲むことで健康にメリットがあることはより確かなものとなった。
「コーヒーと健康については、まだはっきりしていない事柄があります。糖尿病患者にもコーヒーは有益な効果があるのかどうかを調べた研究はまだありませんし、心筋梗塞の患者さんにもコーヒーがよいことを示した論文はあるものの数が少ない。そういった領域の研究が進むことを期待しています」
コーヒーと健康に関しては、今後もより多角的な研究が進むだろう。古野さんが指摘するように未知の分野もあるので、今後もコーヒーと健康に関する研究には注視していきたい。
MedStat株式会社 代表取締役。1949年長崎県生まれ。1974年九州大学医学部卒業。1981年ロンドン大学疫学修士課程修了。防衛医科大学校教授、九州大学医学部教授、国立健康・栄養研究所理事長などを経て、2017年より現職。