全日本コーヒー協会

COFFEE TIMES

インタビュー

インタビュー-Interview-

2022.08.31

廣津留すみれ(ヴァイオリニスト)

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大好きなヴァイオリンと朝のコーヒーは不可欠です。

大分県の公立高校から、学問の名門、アメリカ・ハーバード大学と、世界最高峰の音楽学校の一つであるジュリアード音楽院に進み、どちらも首席で卒業・修了した経歴を持つヴァイオリニスト、廣津留すみれさん。コーヒーとの本格的な付き合いが始まったのもハーバード時代でした。

 最近、お気に入りに加わったこのカラフルなコーヒーカップは、イタリア・シチリア島で焼かれたもの。出会ったのは東京のイタリアン・レストランだった。

「絵皿などと一緒に棚に飾られていました。明るい色味に惹かれて手に取ってみると、販売もしているとのこと。シチリア島と聞いて、もう心が決まりました。シチリア島は私が初めて訪れた海外の場所で、高校1年の時にエントリーした国際音楽コンクールの開催地。素敵な思い出が詰まった場所です。この元気な色と楽しい絵柄はどんな時でも気分を明るくしてくれそうだし、テーブルにこのカップがあったら、1日の始まりを元気に迎えられそうだと思いました。私は朝食の後にコーヒーを飲むのがルーティンで、今は毎朝このカップとコーヒーのおかげで、テンションが上がっています」

 シチリア島のコンクールでグランプリを受賞。副賞として、翌年、高校2年で全米演奏ツアーに招待された。コンクールの上位入賞者たちと一緒にアメリカの4州を回り、ツアーの合間に立ち寄ったハーバード大学。キャンパスツアーに参加して「この大学に入りたい」と強い憧れを抱くようになった。

「ハーバード大学の学生は勉強だけでなく、課外活動にも学業と同じくらいの熱量を注いでいる、ということを、ガイドをしてくれた現役の学生から聞いて、驚きました。私は2歳の終わり頃からヴァイオリンを続けていて、勉強とヴァイオリンをずっと両立させたいと思っていたので、もしここに入ることができたらものすごく幸せだろうなと思ったのです」

 帰国後、インターネットで調べると、海外からもハーバード大学を受験できることがわかった。そこから受験勉強に打ち込み、大分県の公立高校からアメリカ・ハーバード大学に自力で見事現役合格。キャンパスライフとともにスタートしたのが、"コーヒーとの日々"、だった。

「大学時代のコーヒーの思い出は、キャンパス内の食堂と直結しています。ハーバードはとにかく課題の量が多いので、学生はみんな寮の部屋だけではなく、食堂や図書館でも深夜に勉強するのです。どちらも24時間開いていて、食堂では食事や飲み物をビュッフェスタイルで自由にとることができます。コーヒーメーカーもあったので、私も勉強の合間に毎晩コーヒーを飲むようになりました。ハーバードの4年間で、コーヒーは"眠気を覚まして気分をシャキッとさせてくれる"アイテムでした。とにかく毎日、必死だった頃の、夜のコーヒー。でもその後、ジュリアード音楽院に進んでからは、日中にのんびりとコーヒーを味わうことも増えていきました。ルームシェアしていた友人の勧めで、フレンチプレスで淹れていました。その友人とは食べ物の好みも合って、それぞれが買ってきたデリとコーヒーを合わせて楽しんだりしていました。フレンチプレスはコーヒー豆の油分もそのまま出るせいか、香りもしっかり味わえる気がして、好きでしたね」

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衣装/Dorry Doll

 基本的には深煎りが好き。最近気づいたが、そのルーツはどうやら父親にあるようだ。「コロナ禍以降、生活のベースをニューヨークから東京に移したのですが、自宅の近所にコーヒー豆を扱うお店があり、いつも買うのが、深煎りの豆。ある時ふと、どうしてなんだろうと思ったら、父の顔が浮かんできました。実家では昔からコーヒーを淹れるのは父の役目。でもそれがあまりに濃くて、母はお湯を入れて飲んでしまうほど。高校時代までの私は、そのお湯で薄めたコーヒーをちょっと舐める程度でした。今も帰省すると、父が昔と同じように豆を挽いてペーパーフィルターでコーヒーを淹れてくれるのです。先日、それを飲んだ時に美味しいなと感じて......以前からその味や香りに慣れていたということなのかもしれません」

 幼い頃から続けているヴァイオリンは体の一部。一生弾き続けていくと思っていたものの、演奏家として生きていくまでの決断は、なかなかできなかった。ハーバードでも、応用数学や社会学を経て、音楽とグローバルヘルスを専攻。しかし、世界的チェリストであるヨーヨー・マ氏との運命的な出会いが、人生の転機となった。

「ハーバード主催のレセプションで、私の演奏を聴いてくださったディレクターの方が、メールをくださったのです。そこには "ヨーヨー・マ率いる『シルクロード・アンサンブル』で共演しませんか?"と書いてありました。信じられない、夢のような機会でした。その共演を通して、ヨーヨー・マさんが演奏で人を感動させるだけでなく、音楽を通じて教育活動や慈善活動を行っていることに心を打たれました。そして、私自身もヴァイオリニストとしての道をもっと極めたいと思い、ニューヨークにあるジュリアード音楽院の受験を決意しました」

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コーヒーのリフレッシュ・タイムを大切にしたい。

 ハーバード卒業後、ジュリアード音楽院の大学院に進学し、首席で修了。現在は、演奏活動の傍ら、日本の2つの大学でグローバル人材を育成するための「マクロ"音楽"学」や「ビジネスアンドエコノミクス」の授業をすべて英語で行っている。さらに地元大分市の教育委員やテレビ番組のコメンテーターなど、多忙な日々が続く。

「高校時代までずっと大分で、その後、アメリカでの生活経験しかなかった私にとって、東京で暮らすこの約2年間は、新しい発見の連続でもあります。たとえば、週末はたいていコンサートで国内のさまざまなエリアを訪れていますが、大分にいる時は距離を感じていた地域でも、東京からだと新幹線でどこへでも数時間で行けるというのは新鮮な驚きでした。移動が多くて"自分は今どこにいるんだ"状態が続くこともありますが、そのような中でも家にいる時には、朝はちゃんと決まったごはんを食べてコーヒーを飲む、という生活を続けるようにしています。昼間に飲む時間がないと、朝のコーヒーのありがたさを、より感じます。1日の中に5分でもいいから、そういうほっとできる時間を持てたらいいなと思いますね」

文・牧野容子/写真・河内彩
更新日:2022/08/31
PROFILE
廣津留すみれ(ひろつる・すみれ)
ヴァイオリニスト。大分市生まれ。2016年にハーバード大学(学士課程)、2018年にジュリアード音楽院(修士課程)を卒業。世界的チェリスト、ヨーヨー・マ氏との共演のほか、ゲーム「ファイナルファンタジー」シリーズの演奏・録音などを担当。成蹊大学客員講師・国際教養大学特任准教授。情報番組にコメンテーターとして出演もしている。著書に『ハーバード・ジュリアードを首席卒業した私の「超・独学術」』(KADOKAWA)ほか。2022年2月にファーストCD「メンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲+シャコンヌ」をリリース。ジュリアード音楽院の教授ジョセフ・リン氏の代演を務めたコンサートのライブ音源を収録している。