COFFEE BREAK

文化

文化-Culture-

2017.08.10

コーヒー焙煎士、パリの流儀 Vol.4

焙煎士には、職人と芸術家がいる。

Anne Caron
アンヌ・カロン

1971年パリ生まれ。生物学を学び、大学卒業後は食品コンサル会社に就職する。1998年に父の率いるカロン社に入社、2005年より社長を務める。

1種類のハウスブレンドで、40年以上支持を受け続ける焙煎所。そのポリシーは「美味しいコーヒーの味は、一つしかない」だ。美食の都で活躍する、個性豊かな仕事人たち。その流儀に迫る連載。

 個性派揃いのパリの焙煎士たちの中でも、特殊なスタイルを貫いている「ル・カフェ・カロン」。パリ郊外の焙煎所で1日700㎏以上の豆を煎るが、商品はハウスブレンド1種類のみ。しかも顧客の大部分はレストランやカフェなど、プロの飲食業者だ。
 「私たちにとって、〈美味しいコーヒー〉の味は一つしかない。それは1種類のシングルオリジン豆だけでは、表現できないものなんです」
 2代目社長兼焙煎責任者のアンヌ・カロンは、さらりと言う。
「骨格はしっかり。まろやかで美しい甘さ、フルーティな酸味。アロマはフローラルで、綺麗な余韻が続き、繰り返し口にしたくなる......」
 1974年、〈カロンの味〉を生み出したのは、2年前に他界したアンヌの父シルヴァン・カロン。唯一の味を実現するために彼が選んだのは、個性の異なる数種類の豆を、パズルのピースのように組み立てることだ。その考え方は、数種類のワインをブレンドするシャンパーニュに近い。自社の焙煎哲学の特殊性を、アンヌはこう表現する。
「焙煎士には2種類あります。単一豆の特性を最大限引き出す職人タイプと、自らの理想の味を作るためにブレンドを追求する芸術家タイプ。ここ数年パリで数を増やしている焙煎士は前者が多く、我が社は完全に、後者ですね」

生産地での人道支援は、コーヒーの質の向上に不可欠。

 用いる豆はアラビカ種のみ4種類。エチオピア、グアテマラ、ニカラグア、ブラジルで、どれも高度1,200メートル以上の産地から収穫される「高地のコーヒー」だ。その選択も固定ではなく、産地の状況や豆の品質によってこまめに見直す。目指す味が決まっているからこそ、基盤の豆の品質がすべてを左右するからだ。そのために、カロン社は産地の環境整備にも積極的に関わっている。特にグアテマラでは現地アソシエーションと提携し、プロジェクトを自社予算で実践。過去10年で3つの学校、1軒の診療所、1つの協同組合、2.5キロメートルの灌漑設備を整えた。
「コーヒーチェリーの収穫状態は、収穫人の勤労・生活環境の改善によって飛躍的に良くなります。質を求めるなら、そこに関わる人々の生活を支えることは、不可欠なのです」
 理想の味を求め、産地まで遡る。その哲学に共感する顧客は現在、700件を超えている。

ブラジル式試飲セット
試飲する際は、挽いた豆に湯を直接注ぐブラジル式を採用する。「表面の泡を壊した瞬間に立つ、ハチミツやブリオッシュの香り......コーヒーの仕事をしていて、一番好きな時間です」

「ヴィレイ・ガルニエ」の焙煎機
父の代から使用する1960年代製の焙煎機。「特別な甘さを煎り出すマシンで、この甘さこそ我が社の看板」。最新のデジタル制御に頼れないので、毎日、焙煎6回分の豆を試飲している。

エチオピア・シダモ州、シャキッソ地方の生豆
原始林の区画で、伝統製法で作られた豆。「農薬に費やす予算がない国だからこそ、コーヒーが自然な姿でいられる。アロマが素晴らしく、この国にしかない味わいの豊かさを感じます」

Le Café Caron
ル・カフェ・カロン

写真はパリ郊外の焙煎所。パリ市内に豆の販売とイートインの営業を行うカフェもある。
32, rue Notre-Dame de Nazareth 75003 Paris
www.cafecaron.com

文・髙崎順子 / 写真・村松史郎
更新日:2017/08/10

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