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COFFEE BREAK
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世界のコーヒー-World-
「自由」を謳歌する、シカゴのコーヒー・シーン。
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Big Shoulders Coffee ビッグ・ショルダーズ・コーヒー
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比較的コンパクトな店内。メインのテーブル席は一人でもグループでも気兼ねなく相席できる絶妙な形状と大きさ。
カール・サンドバーグの『シカゴ詩集』で、シカゴは〈がみがみ怒鳴る、ガラガラ声の、喧嘩早い、でっかい肩の都市〉と表現されている。この中の〝でっかい肩〟が店の名前の由来。地下鉄ブルーラインのシカゴ駅のすぐ真上に立つこの店には電車の運行状況を示すモニターが掲げられている。電車の時間ギリギリまでコーヒーを楽しんでもらおうという、店側の粋な計らいだ。オーナーのティム・クーナン氏は自らが毎日店に立つ。特にこの国では、経営者が他の人間をマネジャーに立てて本人は表には出てこないことが多いなかで、それは珍しいことだ。クーナン氏のコーヒー・キャリアは15歳の時にロースターとしてスタート。その後、いったん料理の道に進み、フランス、イタリア、ニューヨークなどで働き、着実にステップアップ。しかし、娘が生まれたのを機に、「家族と過ごす時間が持てて、自分の身の丈に合った仕事を」と、コーヒーの道に戻った。最初は自分でローストした豆を自転車で顧客にデリバリーして回ったという。
左:オーナーのティム・クーナン氏は俳優の故ロビン・ウィリアムズを彷彿とさせる風貌。/中央:店の下を走るブルーラインの運行状況を告げるモニター。/右:この物件をクーナン氏が見つけたのは向かい側の店で朝食を取っていたときのこと。交差点の角で駅の近くというのが気に入った。
オーナーの人柄に、シカゴ人の気質を重ねて。
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左:カウンターの奥の壁にはサンドバーグの詩が。/右:店頭に設置されたロースター。クーナン氏は「ロースターはあくまでも豆の個性を出すもので、店のスタイルを表現する道具ではない」と言う。
平日の客は通勤途中のビジネスマンが多く、週末は地元の人々がもっぱらだと言う。こぢんまりした店なので、訪れる誰もがクーナン氏と言葉を交わす。彼は饒舌というよりはシャイなタイプで、長い会話にはならないが、そこには温かく親密な空気が漂う。 美食家を相手にする世界を経てきただけに、コーヒーの品質にはとことんこだわる。5、6社のサプライヤーと付き合い、稀少なパナマ産のゲイシャを含め、7種類の豆を常備し、コーヒーのタイプに合わせてドリップの方法も替える念の入れようである。開店して4年。クーナン氏の実直な人柄と仕事ぶりにシカゴ人気質の〝でっかい肩〟を重ねて、今日も人々が集まってくる。
左から:大きな窓と白い壁を基調にしたシンプルで明るい内装。/窓際のカウンター席は話の尽きない友達同士に。/ケニアやエルサルバドルの豆はケメックスで抽出。それぞれの豆の持ち味を最もよく引き出す抽出方法をセレクト。/洋梨のジャムが入ったペアバターロール(3.75ドル)とカプチーノ(3ドル)。
The Worm Hole Coffee ザ・ワーム・ホール・コーヒー
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左:パソコンのバックライトに浮かび上がる客たちの顔も、この店の異空間的な雰囲気作りに一役買っている。/右:カプチーノ(6オンス=3.50ドル、12オンス=4ドル)
店に入って最初に目を引くのは、映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』に登場する車型タイムマシンのデロリアン。レジの脇の壁には『スターウォーズ』、向かいの壁には『ゴーストバスターズ』のポスター。すべてがストレートに主張しているのは〝エイティーズ(80年代)〟だ。店名からして、ワーム・ホール(別の時空に通じる抜け道のこと)。コンセプトは明確。ここではコーヒーが現実世界と異世界とを結ぶワーム・ホールである。アート・コミュニティーに、誕生した空想科学的空間。
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左から:フィギュアを並べた特製テーブルとオリジナルマグ(10ドル)。/マカロン(1個1.50ドル)の色合いもSFっぽい。/マグ・コレクションの棚には、E.T.やマイケル・ジャクソンの顔も見える。/ハンドドリップでシングルオリジンの抽出。
面白いのは、オーナー以下、16人のスタッフの全員が80年代以降の生まれで、エイティーズのカルチャーをリアルタイムで経験していないということ。つまり、科学者ドクもC-3POもマシュマロマンも、彼らにとっては二重に架空の存在というわけだ。 シカゴ北西部ウィッカー・パークにこの店が開店したのは5年前。近くにアート系の学校があることから、界隈は雰囲気の良いバーやギャラリー、セレクトショップが並び、アート・コミュニティーの様相を呈している。街の雰囲気が生んだ、この街らしいカフェというわけだ。客層は学生が中心。友達とのおしゃべりを楽しむというよりは、パソコンの中の世界に没頭している人が多く、それがまたこの店独特の雰囲気を作り出している。 コーヒー豆は、同経営のロースター・カンパニー、ハーフウィットから調達。ルワンダ、コスタリカなど5種類のシングルオリジンを揃え、豆本来の香りを引き出す「中煎り」を店のスタイルにしている。 レジの上に掲げられた「TOP5プレーヤー」はコーヒー・ドリンクの人気ランキング。第4位には、ジンジャーとカレーパウダーでフレーバーを付けた「クール・バット・ルード」がランクインしている。これぞまさに、空想科学的な味わい?
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左:シカゴ・ブルズのジャージーを着たスタッフ。スタッフも80年代の映画に出てきそうな個性派が揃っている。/中央:デロリアンはオーナー自らが中古車から作り上げたもの。/右:"異空間"への入り口。カフェには見えない?
Dark Matter Coffee ダーク・マター・コーヒー
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ファンタジー作品に出てきそうなロースターはちゃんと稼働している。ブラマー氏はオハイオ州出身で現在はシカゴをベースに活動している。
こちらはロックンロール的コーヒー空間。ダーク・マター(暗黒物質)とは天文学の用語で、仮説上の物質(ニュートリノはその代表例)。この言葉の持つロマンチックで怪しげな響きとコーヒーの色合いとを掛けているのだ。 店全体がジェイソン・ブラマーというアーティストのインスタレーション。金色と朱色に塗られ、配管がデフォルメされたロースターはファンタジーの中のゴシックな宇宙船のようだ。
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左:ヘッドクォーターの隣にある店舗は主にテイクアウト用。徒歩圏にカフェがある。/右:グラフィティ風の外装もジェイソン・ブラマー氏の作品の一部。
シカゴ・カルチャーの粋を、コーヒーで表現する。
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左:ミュージシャンとのコラボレーション・カセット。グラスの中身は"スパークリング・コーヒー"。/中央:アイス・コーヒー「チョコレート・シティ」(9ドル)。/右:タップでコーヒーを注ぐホッジズ氏。
この店が追い求めているのは「コーヒーの進化」。生ビールのようにカウンターのタップから注がれるのは窒素を充填した〝スパークリング・コーヒー〟。ビール用の大瓶で売られているのは、アイス・コーヒー。アーティストのインスピレーションをコーヒー豆のブレンドとパッケージで表現したり、ミュージシャンのオリジナル・カセット・アルバムに限定ブレンドのコーヒー豆を合わせて販売するなど、クロス・カルチャーなコラボレーションも行う。これまで一緒に仕事をしてきたミュージシャンの中には、マストドン、ジューダス・プリーストといったヘヴィ・メタルの大物や、シカゴ・ハウス・ミュージックを代表するデリック・カーターらが名を連ねる。 「シカゴのカルチャーがかっこいいということを、この店を通して知らせたいんだ」と言うのは、スタッフの一人、カイル・ホッジズ氏。元々レコード店を経営していたが、 音楽業界出身のこの店のオーナーにスカウトされて転職した。かつて、アメリカ南部の貧しいブルース・マンたちにとってシカゴは「成功が約束された地」だったように、今、この街のカフェは野心家たちが輝くことのできるステージなのだ。 ホッジズ氏は、音楽フェスの運営にも携わっており、ライブ会場には、ケッグ(ビール用のアルミ製の容器)に詰めたコーヒーを持ち込むという。
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左:個性派揃いのスタッフ。タトゥー・カルチャーとコーヒー・カルチャーの結びつきが強いのもシカゴの特徴。/中央:ヘッドクォーターでは日々カッピングが繰り返されている。/右:樽でコーヒー豆を寝かせる熟成コーヒーを研究中で、コニャック樽、リキュール樽など85種類の樽を試している。
Bow Truss ボウ・トラス
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メインのテーブルは活字の整理棚をリフォームしたもの。エスプレッソ3ドル、カプチーノは3.50ドル。/レイクビューにある1号店のスタッフ。/壁際にうずたかく積まれたスピーカー。ボードには売っている豆のリストが。常時10種類以上の豆が揃う(12オンス入り、12.50〜23ドル)。
シカゴのコーヒー・シーンをリードしてきたのがインテリゲンチャ・コーヒー&ティー。それを猛追する存在がこのボウ・トラスだと言われている。現在シカゴ市内に3店舗あるが、年内には6店舗に増える。来年にはニューヨーク出店も決まっている。店名は、かつて穀類の倉庫だった店の天井に残る弓形の梁(=bow Truss)から付けられた。店内に飾られたカヌーやソリが五大湖の岸辺を感じさせるが、特に際立ったコンセプトがあるようには見えない。知り合いの家の倉庫でコーヒーを飲む感じがリラックスさせる。顧客と一緒になって作る、コーヒー・カルチャー。
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店外の脇道の壁に描かれたグラフィティ。「ボウ・トラスをご自宅に」との文言にも店のメッセージが込められている。