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COFFEE BREAK
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世界のコーヒー-World-
多様な文化を楽しむ、チューリッヒのカフェ。
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Milchbar ミルクバー
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エスプレッソが主流のスイスだが、この店ではハンドドリップやサイフォンコーヒーにもこだわる。
「チューリッヒのカフェを取材するなら、絶対に行くべき!」とコーヒー愛好家から推薦されたのが、2015年1月にオープンした「ミルクバー」。高級ブティック街の一角にできた、この隠れ家的な店が、コーヒー業界内でも評判なのだという。 3人も入ればいっぱいになるくらいの小さな店内だが、この日もオーダーを待つお客の列がずらり。待ちながらコーヒーグッズが並ぶ棚を眺めるだけで、期待が高まってくる。
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左から:カフェのディレクター、ダリオさん。/ホテルの中庭。暖かい季節には人でいっぱいになる人気の場所だ。/ホテルの外観。向かって左にミルクバー、右がレストラン。その上が1部屋きりのゲストルーム。オークション形式で宿泊予約をするという、知る人ぞ知る隠れ家ホテルだ。
カフェのディレクター、ダリオ・ストープさんはコンクールでの受賞歴もあるコーヒーのプロ。南イタリア出身の父から「水が悪ければ美味しいコーヒーはできない」「圧力が高いからといってコーヒーが美味しくいれられるわけではない」など、幼い頃からコーヒーに対するこだわりを聞かされて育ったという。 今も意識しているのは、加圧と豆のバランス。「スイス人は、コーヒーが美味しくないと『この店はマシンの気圧が高くないからだ』と文句を言うくらい、気圧のジンクスを信じているんだ」とダリオさんは笑う。
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左から:人気はやはりエスプレッソ。その他、コーヒーメニューは10種類以上が揃う。/カフェの外には自由に飲める水が置かれている。水も有料のスイスでは貴重なサービスだ。/パンも人気。素材を厳選し、特注で焼いてもらっている。
遠方からわざわざ来店、批評してくれるお客も。
「でも本当は豆の特徴を把握してさえいれば美味しいコーヒーはいれられるんだけどね。気圧は高すぎても豆の苦みが出すぎてよくないんだ」 2ケ月に1度、サプライヤーにオリジナルの豆を用意してもらう。豆の味や香りのバランスを把握した上で気圧を調整し、自分が一番美味しいと思ういれ方をその都度探るのだという。
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左から:朝訪れる常連客に人気の組み合わせ。カプチーノ(5.5CHF)、クロワッサン(1.9CHF)。/5分もかけてていねいにいれるアメリカンコーヒー(5.5CHF)。/パニーノ各種(7CHF)。その他、カフェで手作りするタルトやケーキ、フレッシュジュースなども美味しい。
朝はまず自分のコーヒーを飲み、それから仕事に取りかかる。自分が美味しいと思わないコーヒーを人には出せないからだ。味を正確に判断できるよう体調管理にも気を配る。 遠方からわざわざ毎日のように来店し、批評してくれるお客もいる。美味しいコーヒーをいれ、満足してもらうことがダリオさんの幸せだ。Henrici ヘンリッシ
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1357年施工の建物の1階にある。その歴史に敬意を払い、建物名を店名に。/オーナーの一人、ティートさん。
チューリッヒ旧市街の中心にある「ヘンリッシ」は、研究熱心なオーナー姉弟が経営する人気店だ。 インテリアはいかにもスイスの山小屋風だが、屋根裏部屋のテイストも少し盛り込まれた、リラックス出来る空間。テーブルには小さな生花が飾られ、まるで気心の知れた友人宅のサロンのような雰囲気で、長居する常連客も多いという。
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左から:ケーキは5~8種。ブラウニーやチーズケーキもありアメリカを感じさせる。/キッシュ(9CHF)やサラダ(6.5CHF)も。/16時間かけて水出ししたNitro Cold Brew(7CHF)。香り高く甘みがあり、シルキーでクリーミーな口当たり。
オーナーのティートさんとオリヴィアさんは数年前までサンフランシスコに住んでいた。カフェブームのさなか、数多くの個性的なカフェに足を運んだという。その中から「これだ!」と思った店のノウハウを勉強し、居心地の良い空間でコーヒーを何時間でも楽しめる店を目指して、7年前にヘンリッシを開店した。 今では世界中のコーヒーを研究し、美味しいもの、ユニークなものに出会うと季節のメニューに加え、店で出す。オリジナルの焙煎も月ごとのスペシャルメニューとして提供している。「コーヒーならヘンリッシ」と誰もが言うような店にするのが目標だ。世界の味が楽しめる、みなの憩いの場を作りたい。
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左から:店の入り口には本棚が置かれ、新聞や子どもの本、雑誌などを自由に手に取り読むことができる。/ハウスブレンド3種、リキュール入りのアレンジコーヒーなど、30種以上を提供している。
新たなるコーヒーとの出会いを求めて、時間さえあれば他国にまで足を運ぶ。そうして生まれた16時間かけて水出しするクリーミーなアイスコーヒーや、研究に研究を重ねて作り出した、3種の豆をミックスしたコクと切れのあるハウスブレンドなどが、どれも他店にはない贅沢な究極のコーヒーだと評判だ。 豆は毎月、ティートさんの好みに合わせてサプライヤーにオリジナルのブレンドをアレンジしてもらう。「豆の質はチューリッヒで一番だよ」と胸を張る。 コーヒーに合うフードメニューも増やし、月に1度は音楽のライブを開く。「世界のグルメと音楽をここに集めて、人々に憩いを与える最高の場所を作りたい」と貪欲に進化し続ける、今後も楽しみな店だ。
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左から:デッキテラスは1年中オープン。いつも人で賑わう憩いの場だ。日に何度も通う客も多い。/客層は若いカップルからお年寄りまで幅広い。コーヒー好きが足を運ぶ店として定評がある。
John Baker ジョン・ベイカー
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オーナーのイエンズさん。ジョン・ベイカーという店名は、自身のニックネームをそのままつけた。ベーカリーの2代目として育ち、父のもとでパン職人として働いていたが、なかなか世代交代をしてくれないことに痺れを切らし2年前に独立した。
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左から:パンに合うコーヒーの味を1年かけて探し出したエスプレッソ(3CHF)。/ カプチーノ(4.6CHF)、クロワッサン(1.5CHF)など。 /一般には流通していない有機農法の生乳をカプチーノに使用。素材に徹底的にこだわる。
湖の畔にあるオペラハウスの1本裏の通りに店を構える「ジョン・ベイカー」。ベーカリーの2代目であるオーナーのイエンズ・ユングさんが、自分のライフスタイルに合った店を、と2年前にオープンした。 店ではビニールの袋は使わない。オリジナルのエコバッグを販売し、エコロジーを提案する。配達は全て自転車で。小麦粉を挽くところから店内で手がけ、素材にとことんこだわる。 「美味しいパンとコーヒーの組み合わせは最高の幸せを与えてくれる」と言い切るイエンズさん。自分が作るパンに合うオリジナルのコーヒーを、1年かけて研究し、開発した。辿り着いたのはホンジュラスの豆。標高2000m級の極めて高地で採れた豆を、軽めにローストする。 なかでも自慢はカプチーノ。一般には流通していない、特別な有機農法で生産される生乳を取り寄せて作る、こだわりの1杯だ。 これが飲めるのはチューリッヒではこの店のみ。ミルクの甘ったるい後味が口の中に残らず、消化もよく、パンに最高に合うのだとイエンズさんは胸を張る。
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左から:パンを保存するための麻袋やコットンエコバッグ、まな板とナイフなど、オリジナルグッズも販売している。/配達は自転車でエコロジカルに。/パンとコーヒーを売るそのすぐ奥で、パンが次々と焼き上がる。パンを買うついでに人気のコーヒーをさっと1杯、その場で楽しむお客が多い。
コーヒーとパンは、スペシャルな組み合わせ。
店内では様々なオリジナルグッズが販売されているが、これは店の名前を売りたいからではなく、エコをお客にも意識してほしいから。 「麻袋に入れて保存するとパンが長持ちする。エコバッグを持ち歩けばビニールの袋を使わなくて済む。そんな昔の良い習慣を改めて見直してほしい」とイエンズさんは言う。彼のパンとコーヒーは、このような哲学から生み出されている。 この店では、日々のパンやコーヒーのみならず、クリスマスやイースターなどの祝日にはスペシャルな一品の予約販売もおこなっている。たかがパンとコーヒー、されどパンとコーヒー。そんなこだわりを発信する、ユニークで愛される店だ。Sphères スフィアーズ
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左から:店の看板メニュー、普通の倍量が入ったグランカプチーノ(7CHF)。 /オーナーのブルーノさんは大のコーヒー好き。コーヒー豆は彼の好みでブレンドしている。「味の切れがいいので、本をめくるスピードが早くなるよ」/本を探し、ゆっくりと読書を楽しむ客も多い。
今でこそ世界各地にある、ブックストアと合体したコーヒーショップ。その草分け的な店が、17年前にチューリッヒ北西部の倉庫街でスタートしたこの「スフィアーズ」だ。 開店当初、あたりには1軒のカフェもなく殺風景なエリアだったというが、店の評判が広まり、人々が集まるようになった。多くのアーティストがこの地区に暮らし始め、その後ギャラリーなどもオープンするようになり、やがて新たなカルチャーシーンの誕生における中心的な役割を担ったのだ。 オーナーは建築家で元大学教授の知的な紳士、ブルーノ・デカートさんとその妻。「知の領域」「天体」を意味する店名のとおり、地域の文化的活動を牽引してきた。ブックストアにコーヒーショップを併設することで、本をもっと身近に感じてもらい、レクチャーなども開いて人が集まる場にしたかったのだという。 人気の秘密は、コーヒーの美味しさはもちろんのこと、「美味しいコーヒーと面白い本さえあれば、クリエイティブなアイディアがどんどん生まれる」という、彼らの信じるコーヒーマジックの力だ。本とコーヒーへの情熱で、17年も続けてこられた。
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カジュアルなインテリアながら、会員制ラウンジのような雰囲気。何時間もいたい居心地の良さだ。