【駐日ジャマイカ大使】
クレメント・フィリップ・リカード・アリコック閣下
ブルーマウンテンが、二国の絆を結ぶ。
ブルーマウンテンは、ジャマイカを代表する峰の名前であり、
ジャマイカが世界に誇るコーヒー豆のブランド名。
どちらも国民にとって、なくてはならない大切な存在です。
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ジャマイカのアートが並ぶ大使公邸のリビングルームで、大使夫人のお手製のお菓子を囲み、お子様方も交えてくつろぐご一家。皆さん、笑顔がとてもチャーミング。
ジャマイカといえば、いわずと知れた「ブルーマウンテン・コーヒー」のふるさと。現在、その生産量の約65%が日本に輸出され、消費されている。
「我が国は1670年からイギリスの統治下にあり、1962年に独立しました。そして、直接日本にコーヒー豆を輸出するようになったのが1966年。それから今年でちょうど50周年になります」
と語る駐日ジャマイカ大使クレメント・フィリップ・リカード・アリコック閣下。
「私が日本に着任したのは3年前の夏。以前からブルーマウンテンが日本で愛飲されていることは知識として知っていましたが、街にこれほどカフェがあふれていて、本当にたくさんの人がブルーマウンテンを飲んでくださっているのを目の当たりにして、正直、とても驚き、感動しました」
国土の約80%が山地のジャマイカ。その最高峰が、東南部にそびえる標高2256のブルーマウンテン峰だ。その中でも標高800~1500mのブルーマウンテン地区で生産された豆だけが「ブルーマウンテン・コーヒー」と称することを許されている。
「同じカリブ海に浮かぶ島、フランス領マルティニークからジャマイカにコーヒーがもたらされたのは1728年。当初、その栽培を支えていたのは奴隷制度による労働力でした。19世紀の奴隷制度廃止後、一時期、栽培は衰退しましたが、20世紀になってコーヒー産業が復活。以来、世界でも最高品質といわれる豆を生産し続けております」
国内最高峰にして、世界的なコーヒーの名産地。
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朝はコーヒーにスコーン、そしてチーズやハム入りの「アキー・キッシュ」。アキーは西アフリカ由来のジャマイカの代表的果物。
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左:ジャマイカの陶器。/右:赤いチェックの「マドラス・バンダナ」はジャマイカの女性の正装と同じ柄。
ブルーマウンテンの味わいは、美味しいコーヒーの条件とされる〝香り・味・コク〟が見事に調和した〝黄金バランス〟と評される。
「ブルーマウンテン地区には、昼と夜の寒暖差があることや、急斜面で水はけがよいこと、海底の有機質を多く含む火山灰の土壌であること、雨量が年間1500~1800mmであることなど、コーヒー栽培に最適とされる条件がそろっています。さらに、急斜面では機械の導入が困難なため、栽培も収穫もすべて手作業で行い、赤く熟したチェリーのような実だけを一粒ずつ摘んでいきます。そのような環境のもとで、美味しいブルーマウンテン・コーヒーが生まれるのです」
また、ブルーマウンテン峰は登山やハイキングの人気スポットでもあると、大使夫人が話してくれた。
「子供たちがまだ小さい頃、家族で登ったことがあります。山頂で日の出を見るために、中腹のロッジに泊まり、午前2時に出発。コーヒーの栽培地区が近いせいか、フレッシュなコーヒーの香りで目が覚めたのが印象的でした。子供たちをロバに乗せて、日の出を目指して暗い山道を登っていきました。
また、ジャマイカには古い民謡があります。女性が市場に買い物に行って、バナナやフルーツがあるけれど、私に必要なのはコーヒーだけよ、という歌詞で〝私のコーヒー、私のコーヒー〟という言葉が繰り返し出てくるのです。幼い頃から聞いていて、そこだけが記憶に残っています(笑)。コーヒーはジャマイカの人々にとって、愛すべき飲み物であると同時に、歴史的背景から、独立心を鼓舞して勇気づけてくれるような象徴でもあるのです」
ジャマイカと日本、何かと身近な関係に。
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家具や調度品の中にはジャマイカから運んだ長年の愛用品も。
ところで、ブルーマウンテンはコーヒーの中でも唯一、麻袋ではなく樽詰めで輸出されることでも知られている。
「ジャマイカにまだ奴隷制度があった時代、イギリスなど当時の先進国は、水や酒を樽に入れて船でジャマイカに運んでいました。到着後、樽が空になると、
代わりにそこにスパイスなどを入れて、また船で運びました。ジャマイカでラム酒作りが始まると、樽はラム酒の容器としても使われました。
やがてコーヒーが栽培、出荷されるようになり、人々がちょうどいい入れ物を探したところ、もともと水や酒が入っていた「空樽」に目をつけた、というのが始まりだったといわれています」
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左:素朴な陶器の人形が並ぶ。/右:都心にあることを忘れそうになるリビングルーム。窓の外の大きなスギの木にいつも鳥たちが集まってくる。
世界で初めてコーヒーを樽詰めにしたジャマイカ。こうして、樽はブルーマウンテンの伝統的かつアイコン的な容器となった。木の樽を使うことのメリットとして「防虫・防臭・防湿・品質の劣化を防ぐ」などが挙げられるが、最初からそれらをわかっていて使い始めたわけではなく、むしろそれは後から判明した利点のようだ。
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大使お気に入りの書棚の前でくつろぐ時間。棚の上にはジャマイカの昔ながらのカラフルな家を象った陶器の置物が並ぶ。
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コーヒーに合わせるお菓子は、バナナブレッド(左)やココナッツタルト(右)。どちらもフルーツが豊富なジャマイカならではの焼き菓子で、朝から気軽に作る家庭も多いという。
コーヒーは毎日欠かさないという大使ご夫妻。日本に来てから、大使は飲み方に少し変化が出てきたのだとか。
「以前はブラウンシュガーを入れていましたが、日本でお茶会に親しむようになってからは、コーヒーもブラックで飲むようになりました。お茶会の抹茶に限らず、日本に来て、素材そのものの味を楽しむことの素晴らしさを改めて知った気がします。ブラックで飲むとカロリーの心配もないので、妻も喜んでいるかもしれません(笑)」
地球儀の上ではジャマイカと日本は裏表の位置にあるが、じつはとても身近な関係なのだという。
「どちらも国名の頭文字が〝J〟なので、私たちはオリンピックや国際会議ではいつも隣同士です。今年はジャマイカのボブスレーチームが大田区の下町ボブスレーと契約し、鳥取県とジャマイカのウェストモアランド県が姉妹都市提携を結びました。これからも、日本との絆をさらに深めるために貢献していきたいと思っています」
駐日ジャマイカ大使
Mr.Clement Philip Ricardo ALLICOCK
クレメント・フィリップ・リカード・アリコック閣下
1983年マーシーカレッジ(米ニューヨーク)英文学の文学士号を取得、90年フォーダム大学(米ニューヨーク)国際政治経済学修士号取得。01~02年ジャマイカ外務・外国貿易省人権アドバイザー、02~08年在米国マイアミジャマイカ総領事、08~12年ジャマイカ外務・外国貿易省儀典長、12~13年ジャマイカ外務・外国貿易省二国間関係局長を経て、13年より日本に着任。
Jamaica
ジャマイカ
■ 面積:10,990平方キロメートル(秋田県とほぼ同じ大きさ)
■ 人口:272.1万人(2014年世銀)
■ 首都:キングストン
■ 言語:英語、英語系パトゥア語
※外務省ジャマイカ基礎データによる
ジャマイカ大使館
Embassy of Jamaica in Japan
東京都港区愛宕1-1-11 虎ノ門八束ビル2階
☎03-3435-1861
文・牧野容子 / 写真・大河内禎
更新日:2016/08/18