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COFFEE BREAK
世界のコーヒー-World-
トレンドとノスタルジーの街ブエノスアイレスのカフェへ。
COFFEE TOWN コーヒー・タウン
サンテルモ地区の骨董市は、日曜日のブエノスアイレスの魅力の一つだ。街一番の古さを誇る地区には、コロニアル風建築と石畳が残り、まるでアルゼンチンのシンボルカラーのような青空の一日となれば、ノスタルジックで、かつ開放的な雰囲気が観光客を迎える。 そんなサンテルモで19世紀末から営業する常設市場がいま、コーヒートレンドの発信地として賑わっている。 食材が並ぶ敷地の中央にブースを構えるコーヒー・タウンには、週末になると空席待ちの客に配慮しながら給仕するスタッフの姿がある。その賑わいからは、外国語の響きも聞こえてくる。 「2012年の開店当初は、外国人が多かったけど、いまは地元の客と半々かな」。スタッフとともに給仕に勤しむオーナーのホセ・バレスさんが語ってくれた。
美味しいコーヒーを、ブエノスアイレスに。
「私は、政治経済のジャーナリストとして、30年間にわたり、色々な国で取材をしてきました。訪れた国でコーヒーを飲むにつれて、その美味しさをブエノスアイレスで紹介したいと思って開業したのです」 アフリカ、中南米、アジアの32カ国の良質のコーヒーを取り揃えているのは探究心と情熱の表れだろう。コーヒーのいれ方も様々で、エスプレッソを始め、ドリップやエアロプレスなど世界のトレンドを取り入れている。 コーヒー・タウンのオープンに先立つ2010年には、同じ地区に、アルゼンチン初のコーヒー学校を開校している。社交場としての面ばかりを追求してきたブエノスアイレスのカフェ事情を変えたいという思いから、若いバリスタの育成に尽力している。 昨年には2号店を高級住宅街のレコレータ地区に、今年1月には3号店を大使館が多いベルグラーノ地区に開店した。6店舗までは店を増やしたいというホセさん。良質なコーヒーの普及に余念がないその様はまるで、使命を背負った伝道師のようだ。
Full City Coffee House フル・シティ・コーヒー・ハウス
「お待たせ!」と配達用自転車に乗って現れ、取材に応じてくれたアラン・ラッセル・ドルガンさんは、ブエノスアイレス在住11年のイギリス人。最愛のパートナー、ヴィクトリア・アンガリタさんはコロンビア出身だ。 「外国人夫婦がなぜここでカフェ経営かって? それは私たちの出会いがもたらした運命なんだ」とアランさん。 前妻との離婚の末に職を辞したアランさんが南米周遊へと発ったのは2006年。ドイツW杯開催年とあって、アランさんは南米でのサッカー熱を体感しようとブエノスアイレスに滞在する。そこで知り合ったのが、コロンビア産コーヒー豆を路上販売して、大学の学費を賄っていたヴィクトリアさんだった。 苦学生のようだが、実はコロンビアでコーヒー学校を経営する名士の娘で、路上販売は父が課した人生勉強だった。 アランさんは、運命の人との出会いに導かれ、コーヒーの奥深い世界へとのめり込んでいったのだった。 「今では私以上にコーヒー通だわ」とヴィクトリアさんが認めるアランさんは、自ら焙煎した豆を自転車に積んで出勤するのがほぼ日課となっている。
満を持していざ出店!トレンドの発信地パレルモへ。
BARRIO CAFETERO バリオ・カフェテロ
アルゼンチンの革命家チェ・ゲバラは、そのカリスマ性ゆえに、没後50年となる今でも、世界で人々を魅了してやまない。革命を象徴する赤地に、黒一色でゲバラの肖像写真をプリントしたTシャツは、土産店が並ぶフロリダ通りでも、相変わらず人気の商品だ。 「当店は、この通りに初めてオープンした本格的コーヒー店なんです」。賑やかな遊歩道の雑居ビルの入り口でバリオ・カフェテロを経営するロドリゴ・ロチャスさんは誇らしげだ。 黒地に店名と赤い星を配した看板を掲げた小さなコーヒースタンドで、ロチャスさんは、エスプレッソマシンを注視して丁寧にコーヒーをいれる。彼の真摯な姿に惹かれるのか、 気軽に話しかける客が多いようだ。慌ただしいエリアにあるスタンドなので、客のほとんどは、注文と談話の末に紙コップを手にして通りの喧騒に戻っていく。既成概念を打ち壊せ、コーヒーに革命を!
ロチャスさんもまた海外でコーヒーに覚醒させられた。前職で訪れたコロンビアでコーヒーに魅了され、2009年にニュージーランドのカフェで修業し、その後、北米でのカフェ巡りを経て、2013年に開業したのだった。 店の自慢の一つは、エスプレッソに泡立てたミルクを加えたニュージーランド発祥のフラット・ホワイトだ。遠征で訪れたニュージーランド・ラグビー代表「オールブラックス」のメンバーから評価されたことを満足そうな笑顔でロチャスさんは語った。 バリオ・カフェテロでは、8~10カ国からのコーヒー豆を扱う。良質ながら、広く知られないボリビア産もある。 「味は二の次のこの街の旧態依然としたコーヒー事情を変えたいんだ。だから革命を象徴する赤をシンボルカラーに選んだのさ」とロチャスさん。 この5年ほどで、本格的なカフェが急増したブエノスアイレスは、今、〝コーヒー革命〟前夜にあるのだ。
Malvón マルヴォン
手作りのパンやケーキが人気のマルヴォンでは、今日も女性のおしゃべりに花が咲いていた。おしゃれなアンティーク日用雑貨を装飾に散りばめた店舗インテリアも女性に好まれそうだ。 「雑貨のほとんどは実家にあったもので、買い足したものは少ないんだ」と語るのは、 兄と共同経営するダリオ・マヌエル・ムハファラさん。自前のグッズで装飾してしまうあたりが、凝りすぎない、居心地のよい空間を作っているのかもしれない。
天窓の柔らかな光のもとで、長居したくなる空間。
ステンドガラスの天窓と暖炉のある店舗は、古い屋敷を改装したもの。店先の路上席から、暖炉のある応接間を経て陽光の注ぐ裏庭まで、壁や柱に遮られた5つの異なるスペースがあり、用途や気分に応じて選べるのも魅力だ。 店に入れば、ガラス越しにキッチンが望め、その日に焼かれたパンが、かごにどっさりと入って陳列されている。 「以前は店内で焼いていたんですが、手狭になったので、近所に厨房を設け、そこでパンやケーキを焼いています。今年1月に、さらに大きな場所に移転したばかりで、今後は、食材店での販路を拡大します」とダリオさん。 どうやら知名度を得た店名が、商品ブランドとしても通じる目処がたち、事業の多角化に乗り出したようだ。 アルゼンチンのお菓子といえば、ドゥルセ・デ・レチェとアルファホールが全国的に人気だ。前者は牛乳と砂糖で作るクリーミーなキャラメルで、後者は、それをホロホロっとした食感の厚めのサブレで挟んだもの。さらにそれをチョコレートコーティングしたタイプもある。マルヴォンのアルファホールは生地にアーモンドを加えたもので、コーヒーのお供に最高だ。エスプレッソ・コーヒーの苦味がしっかりとインパクトを残すクリーミーなカフェオレ「コルタード」とともに頂けば、素朴な味の充実感に満たされる。 週末の活気もいいが、コーヒーとともに独り読書に耽りたくなる店だ。