COFFEE BREAK

世界のコーヒー

世界のコーヒー-World-

2023.06.30

【世界遺産とコーヒー】コーヒー生産ゆかりの歴史的街並みとコーヒー農園ツアー

中米・グアテマラのコーヒー生産発端の街だからこそ巡れる
150年の歴史を誇るコーヒー農園ツアー

首都グアテマラ・シティの西南西約40kmに位置するアンティグア(アンティグア・グアテマラ)は、コロニアルタウンとして中米で有数の歴史と美しさを誇る人気の観光地だ。その価値によりユネスコが世界遺産選定2年目の1979年に登録したこの古都は、グアテマラ国内で初めてコーヒーが持ち込まれた街でもあった。アンティグアのコーヒーの歴史と人気のコーヒー農園ツアーをご紹介。

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17世紀に修道院と学校を結ぶために建てられたサンタカタリナアーチ。アンティグアの象徴である。

イエズス会の修道士らが持ち込んだとされるコーヒーの木

 石畳の路地により碁盤の目のように区画された街並みにスペイン統治時代からのコロニアル建築が軒を連ねるアンティグアは、この国一番の観光の街として主に中米、北米からの旅行者を呼び込んでいる。2022年度は年間で約348千人の外国人観光客が訪問。取材に訪れた今年の2月上旬も、街のあちこちで外国人が散策する姿があり、賑やかだった。

 街の創設は1543年と古く、現在の中央アメリカ諸国のほぼ全域を治めたスペイン帝国グアテマラ総督領の首都として、およそ2世紀にわたり栄えた。しかし、18世紀に起こった2度の大地震により街の大部分が破壊されたことで、1776年に現在のグアテマラ・シティに遷都されたのだった。

 この時に倒壊した大聖堂、イエズス会教会跡、カプチナス修道院跡、レコレクシオン修道院跡などの教会施設は、その破壊の凄まじさを今に伝える廃墟として保存され、観光スポットとして公開されている。

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1773年のサンタマルタ大地震で倒壊しながらも内装の美しさを今に伝える大聖堂。

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コーヒーの木がガーデニング用に植えられていたとされるイエズス会教会跡。

 中央アメリカ諸国でコーヒー輸出量第2位のグアテマラに、コーヒー豆とその栽培方法がいつ、どのように伝わったのか。定かではないが、1750年代にイエズス会士が、先にコーヒー栽培が導入されたジャマイカ、またはキューバからアンティグアに持ち込んだという説が有力だ。

 当初はイエズス会の修道士らが、教会の庭のガーデニングのためにコーヒーの木が植えたとされ、1773年7月にサンタマルタ大地震が発生したころには、市内のところどころに装飾として植えられていたと伝えられている。

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コーヒー豆の乾燥場として利用されたこともあったカプチナス修道院跡。

 1736年完成のカプチナス女子修道院は、遷都前のアンティグアに最後に建てられた修道院だった。陽光が照らす中庭と、それを取り囲むアーチ状の柱との光と影のコントラストが美しい建物はサンタマルタ大地震に遭ってもヒ著しい損壊を免れたが、街の大半が破壊されたことにより、修道院は新たな首都に移転。建物は、長らく放置された後に1813年に売却され、その後は様々な目的で使用されてきた。一時期その中庭が、収穫後のコーヒー豆を天日干しする場として使われたこともあったそうだ。

アンティグアから持ち出されたコーヒーの木から産業が発展

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19世紀後半に生産が始まった『ラ・アソテア農園』のコーヒー農地。

 アンティグアのコーヒーの木は遷都後の1800年に持ち出され、現在のグアテマラ・シティ及びその近郊のビジャ・ヌエバ、ペタパ、アマティトランなどに移植され、そこから各地へ栽培が広まったと言われている。

 1821年にスペインから独立した当時のグアテマラの主要輸出産品は染料の原料であるコチニールとインディゴで、コーヒー豆はまだその座に就いていなかった。ところが19世紀半ばにイギリスで人工染料が発明されると輸出産業が大打撃を受け、政府は代替としてコーヒー生産を奨励。19世紀後半にはその生産が全国的に広まり、ヨーロッパ、アメリカからコーヒー豆の品質が評価されたことで、20世紀を通じて「良質なコーヒー豆をつくる国」として世界での認識を高めていったのだった。

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『ラ・アソテア農園』でのコーヒー生豆の天日干しの風景。

気軽に参加できて学びの機会にもなるコーヒー農園ツアー

 現在も盛んにコーヒーの生産が行われているアンティグアでは、観光地の利点を活かし、複数のコーヒー農園が観光客向けの農園案内ツアーを行っている。

 今回訪れたアンティグアの歴史地区から道程約3kmに位置する敷地面積36.7ヘクタールの『ラ・アソテア農園』は、今からおよそ150年前の19世紀後半にコーヒー生産を始めた、現存する中で最も古いコーヒー農園のひとつだ。

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『ラ・アソテア農園』のベネフィシオ(コーヒー作業場)のエントランス。

 主にアメリカ、コロンビア、コスタリカへコーヒー豆を輸出しているこの農場、昨年はおよそ266トンのコーヒーの実(コーヒーチェリー)を生産した。2000年には『ラ・アソテア文化センター』へと組織を改変し、コーヒー生産のみならず、レストラン、ビアガーデンやミニゴルフ、乗馬などもっぱらファミリー向けの多角的なサービスを営んで、観光客を取り込むようになった。

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コーヒー豆収穫場面のジオラマ(手前)。ガイドは英語・スペイン語で解説してくれる。

 アトラクションのひとつであるコーヒーミュージアムでは、50ケツァル(約920円)の入場料兼ガイド料でグアテマラのコーヒー産業の歴史から、この農園での生産までをガイドが敷地を案内しながら解説してくれる。等身大の人形を用いたコーヒー豆収穫と納品の場面のジオラマや各種コーヒー器具、コーヒー豆製法の図解など、展示品はコーヒー入門としては充実した内容だ。

 また、広い敷地でコーヒー豆を乾燥させる風景や焙煎したコーヒー豆を袋詰めする作業、あるいはコーヒー農地の一部を見て歩くことで、実際のコーヒー生産の一部も見学できる。

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ツアーにはスウェーデンからの観光客たちが参加していた。

 ツアーの締めくくりには、カフェのカウンターでガイドが農場で収穫・焙煎されたコーヒー豆を挽いて、カップに注いでくれる。カフェは売店を兼ねているで、味わってからコーヒー豆をグアテマラ土産として買い求めることもできる。

 コーヒー好きなら、観光で訪れたアンティグアで歴史的街並みを楽しむばかりでなく、街から一歩外に出て、グアテマラのコーヒー生産の一面が知れる農園ツアーを体験してはどうだろうか。生産現場を見て、コーヒー豆のオリジンのひとつを知れば、帰国してから飲む日々の一杯がより味わい深いものとなるはずだ。

 
写真・文/仁尾帯刀
更新日:2023/6/30
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