COFFEE BREAK

世界のコーヒー

世界のコーヒー-World-

2017.11.01

Vol.63 フランス:La Boutique Caron

世界中で愛されるコーヒー。楽しみ方、味わい方は、お国柄によっても千差万別です。コーヒービジネスもまた、その都市ならではのチャレンジを重ね、さまざまな広がりを見せています。
今月から欧米の「焙煎所が経営するカフェ」を紹介します。
フランスでは長年カフェ経営と焙煎は別業種と考えられていましたが、サードウェーブコーヒー到来の影響から、二つの業種が融合した新しいタイプのお店が登場しています。まずはアトリエスペースももつ老舗焙煎所を訪ねます。

コーヒーを知ってもらうためのアトリエショップ。

Vol.63 フランス:La Boutique Caron
www.cafecaron.com

フランス:La Boutique Caron

コンパクトにまとめられた「ラ・ブティック・カロン」の店内。レジ横のエスプレッソマシンでドリンクを準備する。左手カウンター下のケースでは主力商品「カフェ・カロン」を陳列。4種類の上質シングルオリジン豆を組み合わせたハウスブレンドだ。

 パリ郊外に拠点を置く「カフェ・カロン」は、飲食・ホテル業界を中心に700件以上のプロ顧客を持つ大手焙煎所。上質のシングルオリジン豆を組み合わせた1種類のハウスブレンドで40年以上支持されているスタイルは、Coffee Break 本誌89号(2017年7月号)でも取り上げた。
 長年、豆の焙煎と卸売のみを手がけていたカロンが、パリ3区にアンテナショップを構えたのは2015年のこと。「エンドユーザーと直に触れ合える場所を持つことは、創業者である父の夢でした」と、2代目社長アンヌ・カロンは語る。「私たちにとって、ここはお客さんとのミーティングポイント。コーヒーを正しく、よりよく知ってもらえるよう、イートインのほかプロ向け・アマチュア向けのアトリエを開催しています」

[左] カフェ・カロン二代目社長アンヌ・カロンさん。オリジナルのエスプレッソカップを手に、2階のアトリエスペースで。[中] レジ裏のスペースで「季節のコーヒーカクテル」を準備するバリスタのジュリーさん。バリスタは計3名、シフト制で勤務している。[右] 「季節のコーヒーカクテル」。エスプレッソベースにマロンクリーム・栗風味の豆乳を加えたソイラテに、カルーブ(イナゴ豆の実)の粉でアクセントをつけた。

 店舗は1階と2階に展開。
 カフェとショップを併設する1階では、両側の壁にエスプレッソマシンやグラインダーなどのグッズを陳列し、奥のカウンターでイートインメニューを提供する。メニューの軸は自社豆を使ったコーヒードリンクだ。エスプレッソ、カフェオレなどフランスのカフェの定番のほか、ケメックス・ビストン・V60・エアロプレスの中から抽出道具を指定してフィルターコーヒーを注文できる。「季節のコーヒーカクテル」(5ユーロ)はこのショップのオリジナル商品で、3人のバリスタが季節感を取り入れながらレシピを考案。「コーヒーを自由に、多様な方法で味わって欲しい」というアンヌ社長の願いを最もよく表しているのは「オーダーメイドラテ」(5ユーロ)だろう。エスプレッソのショット数、トッピングフレーバーを自由に組み合わせ、その人だけの特別なラテを作ることができる。
 2階部分はアトリエスペース。アマチュア向けのコーヒー講座(1時間30分、参加費50ユーロ)のほか、フランスのバリスタ&ラテアートチャンピオンがテクニックを伝授するバリスタマスタークラス(3時間、95ユーロ)、同チャンピオンが講師となってのプロ・バリスタ養成コース(40時間、2010ユーロ)が行われている。

フランス:La Boutique Caron

[左] 店内で販売する焼き菓子は、誠実なものづくりの姿勢に共感するパリ近隣の菓子職人から仕入れ。コーヒー・紅茶とセットでも販売している。[右] レピュブリック広場にほど近いノートル・ダム・ド・ナザレス通り。若手のレストランや雑貨屋が数を増やしている界隈だ。

 「この店の意義は、コーヒーを再発見してもらうこと」と、アンヌ社長は説明する。「これまでのフランスでは、カフェでも一般家庭でも、コーヒーの繊細さや扱いの注意点が正しく理解されていませんでした。その情報伝達に、コーヒー豆のエキスパートである焙煎士が責任を持つべきだと思ったんです」
 数百年ものの建造物が多く残るパリでは、飲食店の開業にはパリ市衛生局の厳しい基準が課せられている。生物学を修め、早くから焙煎所にHACCP基準を取り入れたアンヌ社長にも、開店に際しロジスティックを整えるのはなかなかに厄介だったという。腐敗による食中毒や異物混入を防ぐための規定のほか、従業員の健康を考慮した粉塵・騒音の基準。店内に焙煎機を置きたいと願ったが、そのための規定に店舗面積が10平米足りず、諦めた経緯もある。
「それでも粛々と基準に従ったのは、お客さんと直接会えるショップがどうしても欲しかったから。コーヒーを巡って、ゆっくりおしゃべりできる場所がね」
 ただ飲むだけでなく、それについて語ることもまた、コーヒーの楽しみ。それを改めて感じさせてくれるスポットである。

〈カフェ情報〉
La Boutique Caron
www.cafecaron.com
La Boutique Caron
32, rue Notre Dame de Nazareth
75003 Paris
Tél 01 40 09 23 17
営業時間 10:00〜20:00
定休 日、月

*1ユーロ=約134円(2017年10月現在)
文・写真=高崎順子(パリ市近郊在住)
更新日:2017/11/1

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