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2021.09.14

糖尿病予防には、デカフェがいい?

膵臓のインスリンを出す細胞が壊されることで発症する1型糖尿病。マウスを用いた実験で、デカフェがその発症を抑える可能性が見出された。

 国が重要疾患の一つに定めている「糖尿病」は、眼や腎臓、心臓や脳血管といった合併症のほか、近年はがんや歯周病などさまざまな病気にもかかわるとされる。糖尿病が強く疑われる「糖尿病有病者」とその可能性を否定できない「糖尿病予備群」を合わせると、国内で約2000万人に上る。

 そのうち9割を占めるのが「2型糖尿病」。そして、膵臓のインスリンを出すβ細胞が破壊され、インスリンがほとんど出なくなるのが「1型糖尿病」だ。1型糖尿病の発症とコーヒーの関係を研究した名古屋女子大学家政学部教授の堀尾文彦さんに話を聞いた。

疫学調査で注目した、コーヒーと糖尿病。

 堀尾さんがこの研究を行なったのは、名古屋大学大学院生命農学研究科教授を務めていたときのこと。栄養学と栄養生化学を専門とする堀尾さんの研究テーマは、糖・脂質代謝異常の遺伝因子と食事因子の探求、そしてビタミンCの新たな生理機能の探求だった。

「食事因子の一つがコーヒーです。疫学調査でコーヒーの摂取と2型糖尿病の発症リスクに関する報告がとても多いので注目しました。コーヒーを飲むと糖尿病の発症を抑制する効果が期待できるという報告は相当数出ています。それで、動物実験で確かめなければ、と思ったのです」(堀尾さん)

 堀尾さんの糖尿病とコーヒーの研究は10年以上に及ぶ。近年では2型糖尿病に関するコーヒーの抗糖尿病作用を証明する基礎的研究を行ない、マウスにおいてコーヒー摂取が高血糖発症を抑制すること、さらにコーヒー摂取が高脂肪食摂取マウスの耐糖能を改善することを報告し、コーヒーを摂ることはインスリン感受性を向上させる可能性があることを示している。

試薬を用いて、1型糖尿病を誘発。

 こうした背景のもと、取り組んだのが1型糖尿病とコーヒーの関係だ。

「1型糖尿病は膵臓ランゲルハンス氏島のβ細胞が破壊されてインスリンが欠乏することで発症します。膵臓ランゲルハンス氏島の保護作用をもつ食品因子を探し出せれば、1型だけでなく2型の予防および疾患に対する抵抗性をも獲得することにつながります」

 膵臓ランゲルハンス氏島とは、膵臓の内部に島の形状で散在する内分泌を営む細胞群のこと。ここが壊れると1型糖尿病を発症するが、逆に言うと膵臓ランゲルハンス氏島のβ細胞が健全な状態であれば1型糖尿病にも2型糖尿病にもならないで済むことになる。

 堀尾さんはβ細胞を破壊して1型糖尿病を誘発する試薬「ストレプトゾトシン」(以下、STZ)をマウスに投与し、血糖値の変化と糖尿病の発症率を見た(図1)。すると、STZ投与9日前から投与後12日までコーヒーを摂取したマウスは、膵臓のインスリン含量の低下が抑制され、糖尿病の発症率も下がり、膵臓ランゲルハンス氏島のβ細胞が破壊されることを防ぐ効果があることがわかった。また、これとは別にデカフェも用いたところ、糖尿病発症を抑える傾向が見られた。

1型糖尿病には、デカフェが効く。

 そこで翌年、堀尾さんは自然発症するヒトの1型糖尿病とよく似たモデルのNODマウスで実験を行なった。6週齢のNODマウスを4群(1群=16匹)に分け、①水(コントロール群)、②コーヒー(飲水として2・5倍希釈ブラックコーヒー)、③デカフェ(同)、④カフェイン(飲水として200㎎/Lカフェイン水溶液)を与え、30週齢までの24週間飼育した。

「時間が経過するとともに血糖値は上がっていきますが、デカフェはよく抑えてくれましたね。そして糖尿病の発症率も抑えています」(図2)

 デカフェ群は血中のインスリン濃度を見ても高い。膵臓のインスリン含量も、有意差は出なかったもののデカフェ群は水よりも高かった(図3)。

「この結果は膵臓のβ細胞にインスリンが残っていることを示しています。どうしてデカフェが糖尿病の発症を抑制するのか、そのメカニズムはわかりません。17週齢のNODマウスも解析しましたが、各群に差はありませんでした。つまり、30週齢までデカフェを飲んでいると、β細胞の破壊が防げると考えられます」

 今回の実験によって得られた「デカフェの摂取がNODマウスの自己免疫性1型糖尿病の発症を抑制する」という可能性を堀尾さんはこう振り返る。

「コーヒー、特にデカフェに膵臓ランゲルハンス氏島のβ細胞を保護する効果が期待できることがわかりました。これは初めて示されたもの。カフェインではないことは少々意外でした」

 長きにわたる糖尿病とコーヒーの研究は、他の研究者や多数の学生たちがかかわったプロジェクト。堀尾さんにとっても愛着のあるものだった。

 ご自身もコーヒー好きと明言する堀尾さん。「1日に何杯飲めばいいんですか?」とよく聞かれるそうだが、「数杯飲むことで効いてくると考えられる」と答えるそうだ。何事も極端はよくない。コーヒーも適度な量を味わいながら飲むことが、健康を保つ近道なのだろう。

堀尾文彦(ほりお・ふみひこ)
名古屋女子大学家政学部教授。名古屋大学農学部農芸化学科卒業。同大学大学院博士課程(後期)満了。ハーバード大学ジョスリン糖尿病センター博士研究員などを経て名古屋大学大学院生命農学研究科教授。2021年4月より現職。
文 前川太一郎 / イラスト 西田ヒロコ
更新日:2021/09/14