COFFEE BREAK

文化

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2023.02.28

コーヒーの魅力がつまった、コーヒー・テーブル・ブック

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 コーヒーやカフェに関する本は海外でもたくさん出版されていますが、日本語に翻訳されるものはわずか。本連載では、味わい深い洋書を著者インタビューとともに紹介します。第8回はメキシコ発。生産国としての事情と消費文化の成長を紹介したコーヒー・テーブル・ブックです。

 コーヒー豆生産量世界9位(20192020年度:24万トン)、輸出量世界11位(20202021年度:14.52万トン)のメキシコは、主要なコーヒー生産国のひとつだ。日本におけるメキシコ産コーヒー豆の輸入量は1,136トン(2021年)と、輸入相手国ランキングでは16位に位置している。

 2018年に発表された『メキシコ・コーヒーを巡る旅(Viaje por el cafe de México)』はメキシコのコーヒー産業の歴史や生産地の魅力、あるいは主要都市の人気カフェなどを多数の写真とともに紹介した一冊。著者のひとりグスタボ・レムス・マルティネスさんを訪ねに、メキシコ第二の都市・グアダラハラに向かった。

メキシコのコーヒーの知識を立体的に知ることができる一冊

「メキシコのコーヒーについて書いてみないか?と出版社オーナーに持ちかけられたのは、私が地元のサッカークラブについての本を書き終えたころでした」と語るマルティネスさんは、心理カウンセラーと統計コンサルタントの本業の傍ら、ライター業も営むマルチタレントだ。そんなこれまでの活動が評価されて制作に加わったという。

「そもそもの企画は、13年ほど前に元の執筆者が急逝したことでお蔵入りとなっていたんです。この間に、都市部でのコーヒー消費文化が目覚ましく洗練されてきたことで、出版社はこのトレンドを逃すまいと改めてメキシコのコーヒー事情を紹介する企画を立て直し、私は2015年から2年7か月をかけて取材と執筆を行いました」

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メキシコのコーヒーを歴史、産業、名産地、消費文化などから多面的に紹介した一冊。

 版元のイルストラ出版は、グアダラハラに編集部を構える。メキシコの多様な魅力を伝えることをモットーに、伝統音楽マリアッチ、メキシコビール、建築、グアダラハラ、サッカークラブなどについての図鑑や写真集など、いわゆる"コーヒー・テーブル・ブック"を発表してきた。コーヒーもまた、昨今の消費文化の発展に加えて、18世紀からの生産の歴史があるゆえ、メキシコを知るためのテーマとして選ばれたのだった。

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最終章ではメキシコシティ、グアダラハラ、ティフアナの主要三都市から人気カフェ17軒を紹介。

 メキシコの事情を主に、コーヒーの魅力を多面的に伝える本書。なかでも「第3章:メキシコのコーヒーの歴史」では史料価値の高い白黒写真が、「第4章:メキシコ・コーヒーの起源を求めて」では生産地の魅力的な風景写真が楽しめる。

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コーヒーを飲むメキシコ革命の兵士たち(右)など歴史的な写真も紹介。

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コーヒー産地10地域を示したマップ。生産地が国の南側の、土地の肥沃な地域に偏在していることが見て取れる。

 メキシコへのコーヒー栽培の伝来には有力な説がふたつある。ひとつは1740年にカリブ海の仏領マルティニーク島から海を渡り、メキシコ湾沿いのベラクルス州に伝えられたとするもの。もうひとつは、1790年ごろグアテマラからメキシコ最南端のチアパス州に陸路で伝えられたという説だ。

 いずれにせよ、このふたつの州が位置するメキシコ南側の地域は、コーヒー栽培に適した気候と火山灰を含む土壌の恩恵により、現在まで主要な生産地であり続けている。第4章では主にチアパス、オアハカ、ベラクルスという3つの代表的な生産地を主に、それぞれの有力な農園に加えて、郷土料理や観光スポットなども紹介しており、地域の魅力が感じられる内容となっている。

 また、メキシコの家庭で作られるほど親しまれているプリンやティラミスに、コーヒーリキュールやエスプレッソなどを加えた品が「第7章:コーヒーと料理」で紹介されている。担当したのは、パリ在住でスイーツ店を営む共著者マリビ・ガルシア・ボツマキアンさんだ。

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共著者マリビ・ガルシア・ボツマキアンさんハンドメイドの「モンテ・アルバン・ケーキ」。

制作を通じて、仕事のパートナーから恋人へと変化した想い

「故人の遺志を継いで加わった私にとって、執筆はコーヒーのことを学びながらの作業になりました。各地で生産者を訪れ、取材したことは、コーヒーに関する私の知識を大いに広げてくれました」

 コンサルタント業の経験を取材に活かしたマルティネスさんは、コーヒーの世界を知るほどに魅せられていったようだ。
「リサーチセンターに勤めていたころは、コーヒーを日に3リットルほど飲むこともありました。ただ、いまから思えば、当時の私はコーヒのことをよく理解していませんでした。その関係は、例えるならビジネスパートナーのようなもの。取材と執筆を通じて深く知ることによって、コーヒーは私にとって愛すべき恋人へと変わりました」

 本書を通じて、コーヒーは量だった過去から、質を求める現在となったと言う。

「農場のオーナーや熟練の労働者、あるいはコーヒー豆の焙煎人、研究者など、取材を通じてコーヒーに携わる人々の仕事に対する情熱を感じました。私がかつてよりコーヒーを好きになったのは、その産業に携わる方々から受けた感銘によるところも大きいです。メキシコでも美味しいコーヒー豆といえばコロンビア産という先入観があります。しかし、私達の国にもコロンビア産に引けをとらない、美味しいコーヒー豆を栽培する生産者が各地にいます。それを知ることができ、執筆し、紹介できたことに私は企画に参加した意義を感じています」

 執筆後も地元グアダラハラに次々に開店する新しいカフェに足を運び、積極的にオーナーと知り合うなどしているマルティネスさん。ますます展開するコーヒーのトレンドから目が離せないようだ。

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●著者:グスタボ・レムス・マルティネス
メキシコ・グアダラハラ市出身にして在住。グアダラハラ大学心理学修士号取得後、人間行動学のリサーチに20年以上にわたって従事。ライフスタイル、サステイナビリティ、ガストロノミーに関する執筆も手掛ける。

Viaje por el café de México』
出版社:イルストラ出版
言語:スペイン語
ページ数:240ページ
サイズ:縦26.5cm✕横23.5cm
著者:マリビ・ガルシア・ボツマキアン、グスタボ・レムス・マルティネス
価格:579.00メキシコペソ
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取材・文・写真/仁尾帯刀
更新日:2023/02/28
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